過去問って何周やればよいのか

標準的な学習は

歯科医師国家試験対策のメインとなる過去問学習。どこまでやるのかは個人差が大きいところですが、さまざまな受験生の話を聞いていると

過去10年分を3周

というのが標準的だと思います。

ただ、実際に取り組んでみると「過去10年分を3周」で順調に成績が上がる科目もあれば、それ以上にやっているのに成績に反映されない科目もありますよね。

人一倍、過去問に取り組んでいるのに結果につながらないのは、あまりにもったいないこと。今回は「過去問の使い方」を間違っていないか確認していきましょう。

まずは確認

すでに過去問を一通り解き終わっているなら、以下の質問に答えてみて下さい。難しい用語は不要です。シンプルに答えられるか試してみてください。

Q1.AMRとは何ですか?

Q2.AMR対策が重要な理由は何ですか?

Q3.AMR対策にはどのようなものがありますか?

Q4.歯科医師として行うべきAMR対策をシンプルかつ具体的に教えてください。

Q5.「医の倫理」に関連する宣言や綱領にはどのようなものがありますか?

Q6.「医の倫理」に関連する宣言や綱領は大きく分けると何分類になりますか?

鉄則1:具体的に理解し、適切に広げる

まずはQ1〜Q4までチェックしましょう。こちらのテーマはAMR対策。114回A-1つまり必修問題で問われた内容ですね。

ちなみに114A-1はこんな感じでした。

解答はDで正答率も9割以上。この問題を解けない人はほぼいないでしょう。

ただし「AMRときたら抗微生物剤の適正使用」みたいに、問われたことしか勉強してないなら明らかに不足。歯科国試では同じ問題は出ません。(同じ内容が形を変えて出題されることはもちろんあります)

1 AMRとは何ですか?

「AMRとは薬剤耐性です」

114A1の問題文にもあるように「AMR=薬剤耐性」です。ここで戸惑ったら要注意!言葉を丸暗記してしまっている可能性があります。

2 AMR対策が重要な理由は何ですか?

「薬剤耐性菌が増えると感染症の治療や予防が十分に行えなくなります。」

薬剤耐性で死亡する人は2050年にはがんによる死亡者を越えるという予測もあるほど、AMR対策は緊急かつ重大な課題です。必修で問われるほど大切な理由もきちんと理解しておきましょう。

図の引用:AMR臨床リファレンスセンター

3 AMR対策にはどのようなものがありますか?

「日本のAMR対策アクションプランは①普及啓発・教育 ②動向調査・監視 ③感染予防・管理 ④抗微生物剤の適正使用 ⑤研究開発・創薬 ⑥国際協力の6分野です」

正確な言葉ですべて言えなくても大丈夫です。ただこれを見ると、このアクションプランのうちの「④抗微生物剤の適正使用」が114A1では正解になっていることがわかりますね。つまり他の項目も「それがAMR対策に含まれるのかどうか」判断できる程度には把握しておく必要があります。過去問で聞かれたことだけ覚えるのではなく、その周辺知識もしっかりと押さえましょう。

図の引用:AMR臨床リファレンスセンター

4 歯科医師として行うべきAMR対策をシンプルかつ具体的に教えてください。

「歯科医師としては臨床現場における抗微生物剤の適正使用が最も大切になります。具体的には適切な①抗菌薬の種類 ②量 ③期間 ④投与ルート の選択をすることが重要です」

→さらに具体的に言うなら

「適切な抗菌スペクトルをもつ抗菌薬を選択する(必要もないのに広域抗菌薬を使わない)。十分量かつ十分期間の抗菌薬投与を行う」

ことが大切。ここまで答えられたら完璧です!!

参考:薬剤耐性が拡大する要因

114A1を解いて「抗菌薬の適正使用」という言葉だけ覚えても意味はありません。具体的に皆さんが歯科医師になったときに、何をどうすればよいのか、きちんと理解しましょう。歯科国試の問題は一度出題されたテーマが、別の切り口で問われることがとても多いです。それに対応するためには、具体的に理解しておきましょう。

Q1〜Q4までまとめると

過去問を使いこなしている人は「具体的に理解」して「適切に広げて」います。これらをきちんとして、過去問1周まわしただけで全国順位500番以内という人もいます。逆に言えば、言葉の上っ面をいくらなぞっても成績は上がりません。丸暗記は絶対に禁止。なぜその知識が必要で、歯科医師としての行為にどうつながってくるのか、具体的に理解していきましょう。小難しい説明はいりません。自分の言葉でカンタンに説明できることの方が大事です。

過去問を使う際には

鉄則1「具体的に理解し、適切に広げる」

ことを必ず行ってくださいね。

さてもう一つ注意してほしいのが「広げ方」です。一問ごとにめちゃめちゃ時間をかけて広げはじめたら、これもまたキリがありません。参考書などを基準として、その問題で問われていることの周辺をまずは把握しましょう。

参考:一般の方向けの情報を活用する

教科書などで具体的な理解ができればそれで良いのですが、苦手な科目はそうもいきませんよね。そんなときには一般の方向けの情報を活用しましょう。多くの人に伝わりやすいように、とてもわかりやすい図などがついていることも多いですし、そもそも「予算をかけて一般の方にもしっかり伝えたいこと」というのは国試にいつ出題されてもおかしくない重要事項です。

今回、例としてあげたAMR対策も、もう少しきちんと理解しておきたいなと思ったら、以下のページを参考にしてみてください。「一般の方へ」の部分だけでも、かなりのことが理解できます。

▶AMR臨床リファレンスセンター

鉄則2:知識を構造化する

さて、残りのQ5〜6を見ていきましょう。医の倫理については114回A-3で出題されていますね。まぁド定番!

5 「医の倫理」に関連する宣言や綱領にはどのようなものがありますか?

「ヒポクラテスの誓い、ジュネーブ宣言、医の倫理の国際綱領、リスボン宣言、ニュルンベルグ綱領、ヘルシンキ宣言などがあります」

まずは似たようなものを頭の中にきちんと1パッケージで入れられているか確認。一番の大枠ができていないと、知識は断片化され、頭の中にキープするのが難しくなります。

6 「医の倫理」に関連する宣言や綱領は大きく分けると何分類になりますか?

「医療者の倫理に関わるもの、患者の権利に関わるもの、医学研究に関わるものの3分類となります」

上記は私が講義などで使っている分け方ですが、別の分け方でも構いません。大切なのは「知識をバラバラにせず、頭の中できちんと構造化すること」。

例えば上記の分類で整理すると

1)医療者の倫理:ヒポクラテスの誓い、ジュネーブ宣言、医の倫理の国際綱領
2)患者の権利:リスボン宣言
3)医学研究の倫理:ニュルンベルグ綱領、ヘルシンキ宣言

となり、解答に迷いにくくなります。(もちろん重複する部分はあるのですが、まずはざっくり整理することをオススメしています)

Q5〜Q6までまとめると

過去問学習のリスクは「知識が断片化しやすいこと」。バラバラの知識はすぐに頭から消えてしまいますし、知識がつながっていかないと思考力が問われるような応用問題にも太刀打ちできません。

それぞれの問題で問われていることは「どの範囲の話(大枠)」で「どう整理すればよいのか」、つまり

鉄則2「知識を構造化する」

ことを意識しながら学習を進めましょう。持っている知識の数が同じでも、それがきちんと整理されているか、それぞれがつながっているかで、成績はケタ違いに変わってきます。

時間をしっかりかけて、知識もたくさん持っているのに、それが点数につながっていない人、本当に多いんです。「知っているはずなのに解けない」とお悩みでしたら、ぜひ以下の記事を参考にしてください。

ツールを上手に活用しましょう

過去問学習は国試対策のメインだからこそ、その間違った使い方は致命的となります。鉄則1、鉄則2を守っているのに合格できない人はいません。ただただ問題を解くだけになっていないか、必ずチェックしてくださいね。

最後にちょっと補足です。一番最初に「過去問は過去10年分が標準」と触れましたが、これは「推奨」ではなく「受験生に聞いてみると、わりと多い意見」です。

個人的には「過去10年分はマスト!しっかりきっちり取り組んでほしい」→「それが終わり、全国順位が真ん中以上になったら、それ以前の問題も参考として見てほしい」という指導方針です。確かに古い問題の中には「もう今後は出題されないかな」というものもありますが、半分以上の問題は学習効果があります。過去10年分でベースがしっかりと出来ていれば、そこを見分ける目も育っているでしょうから、古い問題もぜひ目を通してみてくださいね。