多浪生をつくる親御さんの言動

親御さんに避けていただきたい2つの言動

歯科医師国家試験では回数を重ねるほどに合格が難しくなることはすでにご存知かと思います。受験生本人もご家族もそのような事態は避けたいと思っていらっしゃるのは当然のことですが、決して他人事ではありません。

例えば114回の歯科医師国家試験では
・受験者数 3284人
・4浪以上の受験者数 321人
となっており、全受験生のおおよそ10%は4浪以上の受験者です。
さらに321人中、合格した人は43人で合格率14%。

もちろん「多浪=合格できない」わけではありません。とはいえ、ただでさえ厳しい歯科国試ですから避けられるリスクはできる限り避けておきたいところです。

そんな事態を避けるため、親御さんに避けていただきたいことは2つあります。
・「何年かかっても良いからがんばりなさい」という
・本人の意思を無視して、無理矢理勉強させようとする
この2つは正反対に見えますが、浪人を重ねる受験生の親御さんに非常に多くみられる言動です。

「何年かかっても良いからがんばりなさい」という

大切なお子さんゆえに全力で応援したい。おかしなプレッシャーは与えたくない。そのお気持ちはとてもよくわかります。

ただ「何年かかっても」という一言が不合格をまねくリスクは決して低くありません。私もそうですが、期限を設けずに全力で取り組める人はほとんどいません。目標を達成するためには、まずはゴール設定をすることが何よりも大切です。「現在の成績状況」をきちんと把握した上で、「いつまでに合格する」という目標をお子さんと共有しましょう。

もちろん親御さんにしても、本人にしても「次の国試で合格すること」がベストでしょうから、ついついそこに期限を設定したくなるかもしれません。ただ、現状を把握せずに「何としてでも一年」とするのはかなり乱暴です。次の国試で合格することを目指すのはもちろんですが、実質的には「現状から合格まで、平均的には何年かかるのか」大学の先生や予備校講師など国試関連の成績データや過去の傾向を把握している専門家の意見を参考にして、期限を設定しましょう。

本人の意思を無視して、無理矢理勉強させようとする

「だって言わないとやらないんだから仕方ないじゃないですか」

そのお気持ちもよくわかります。本人はそれなりに勉強しているけれど親御さんからみると十分とは思えなかったり、本当に緊張感に欠けていて自発的に勉強できない場合もあるでしょう。

ただ、無理に机に向かわせても、残念ながら学習効果は上がりません。これが「荷物を運ぶ」ような体を使う作業なら、無理矢理やらせても結果は出ますが、勉強は「本人の頭の中を変えること」。表向き、勉強しているように見えても頭は何も働いていない可能性は十分にあります。

勉強時間が明らかに不足していたり、毎朝起きれず遅刻が続いていたりする場合、それを指摘することは全く悪いことではありません。そこから、どうすべきかを本人ときちんと話し合い、改善策を一緒に考えてください。

親御さんが熱心なあまり、本人の意向を無視して一方的に命令し続けると、お子さんは「何を言ってもわかってくれない」とコミュニケーションを諦め、親御さんの言葉を流し始めます。これが長年続くと「多少の刺激では反応しない」能力、つまりスルースキルがどんどん上がってしまいます。
こうなってしまうと、私たち国試対策の専門家が何を言っても、簡単には反応してくれません。きちんとコミュニケーションをとることにさえ、数年がかりになってしまうケースさえあります。

いずれにも共通するのは

「何年かかっても良い」ということは、受験をやめさせる時を考えていないということ。
また本当に「言わないとやらない」なら、受験に対する援助をやめれば良いだけのこと。

いずれも「どこかで歯科医師になることを諦めさせる」ことにつながります。

これまでご家族も本人もがんばってきたからこそ、諦めることなんて考えたくないでしょうし、ご家庭によってさまざまなご事情もあるでしょう。お子さんの人生に関わることだけに、軽々しく扱える話ではないことも承知しています。

ただ、ここを避けてしまうと、お子さんとの話し合いで論点がぼやけてしまい、「今すべきこと」があやふやになります。「受験を諦めるタイミング」も含めて、お子さんとはお話してください。(いうまでもなく、脅しのためにその言葉を使うのは厳禁です)

また、もしも「お子さんが歯科医師になりたいと思っていない」のであれば、どうかその気持ちを聞いてあげてください。別の道を選択することが、もしかしたらお子さんの人生をより良いものにするかもしれません。

受験の期限を設けなかったり、ついつい口出ししてしまったりするのは、そもそも愛情ゆえでしょう。多くの親御さんを見てきましたが、本当に優しい方が多いことを実感しています。ただ、その優しさによってお子さんの未来を損なうようなことは何としてでも避けていただきたいと心から願っています。浪人を重ねるリスクを避けるため、またすでに何年もかかってしまっている状況を改善するため、参考にしていただければ幸いです。