魔の98回

A問題終了時の異常事態

第98回歯科医師国家試験。私は例年のように会場に応援に行っていました。一日目のお昼休み、会場から出てくる受験生の顔がいつもとは全く違います。当日なので緊張感は毎年あるものの、そんなレベルでは無い青ざめた顔ばかり、、、。

「んん?どうしたんだろ?」

と首をかしげていた私にその年教えていた受講生の女の子達が飛びついてきました。

「先生!やばい!!絶対落ちた!!」

もう泣きじゃくっている子もいます。さらに受講生たちが次々と集まってきました。全国トップクラスの成績を取っていた受講生までが「いや、、、本当にやばいです。」と精一杯冷静を保とうとしているけれど、言葉の端々が震えています。

一体何があったのか聞いてみると、必修がかなり難化したとのこと。

全国トップクラスの子でさえ「8割いくか自信がない」と、、、。

「皆の問題だけが難しいわけじゃない。受験生の条件は全員一緒なんだから、皆が難しいって言ってるんなら絶対大丈夫!午前中のことは忘れて、午後に全力を向けよう!」

受講生達の背中をポンポンと叩きながら、半ば無理やりに送り出しましたが、私自身もこれまでに経験したことが無い状況にかなり動揺していました。

いったい何があったのか?

98回といえば、すでに15年前。95回に必修問題が導入され、98回までの4年間は毎回30問の必修問題が出題されていました。(その後、段階的に必修問題の数は増加しています)

95回から97回までの3年間は、A問題の最初の30問が必修。

それが98回にいきなり、A問題、B問題、C問題、D問題に必修が分散したのです。

98回A問題の必修は問10までで、それ以降は「基礎系分野」の問題でした。問11から難易度が上がるのは当たり前です。でもこれまでずっと「A問題の最初の30問が必修」だったのですから、試験中の受験生がそれに気づくことなんて不可能です。多くの受験生がA問題ではいつもどおりの点数が取れなかったことでしょう。

心底おそろしいのは

何の前触れもなく、試験の形式が変わることは、歯科医師国家試験で珍しくありません。出題基準には問題の配列や各時間ごとの問題数に関する規定はないのです。

ただ、98回に関しては「8割必要な必修に絡む問題配列の変更だった」、さらに「受験生が苦手としがちな基礎系問題を必修問題だと思いこんでしまった」ために、ここまで大きなパニックが起こってしまったのでしょう。

後から受験生にきいた話ですが

「開始1時間で同じ教室の受験生が泣き始め、試験監督が声をかけても泣き止まなかったため、教室から出された」

「昼休み、トイレに嘔吐した後があった」

など、現場の混乱がかなりあったようです。

さらに恐ろしいのが

「午前中に受験していた人が午後にはいなかった」

ぞっとしますね。きっと「もう無理だ」と思って教室に戻ってこれなかったのでしょう。後から気づいた瞬間、言葉に表せないほどの後悔に打ちのめされたと思います。

試験中に問題の難易度分析しても意味が無い

ここまでの異常事態は私も98回以降、経験したことがありません。

でも細かくみると似たような事例はいくらでもあります。

残念ながら定番なのは

「わからない問題が多くて、他の問題まで解けなくなってしまうケース」

そして

「難しい問題に時間をかけすぎて、カンタンな問題を落とすケース」

受験生なら、そして本気でがんばってきたなら、一点でも多く取りたいのは当然ですが、感情に振り回されたらダメ。難易度が高い問題が出題されても、それは受験生全員同じことですし、正答率が低い問題は統計的には出題されなかったのと同じです。

さらに問題全体が難しい年にはボーダーは下がりますよね。必修も除外問題が多くなります。そこまで含めて試験中に分析するなんて誰だって不可能ですから、分析そのものが無意味なのです。はっきり言って余計なこと以外の何物でもありません。

準備段階の自信のなさは、頑張りにつながる可能性がありますが、試験当日はマイナスでしかありません。自分の感覚に自信をもてと言っても無理かもしれませんが、ここはフラットでいきましょう。分析はしない。そんな暇があったら次の1問に全集中する。「これもよくわからない。どうしよう」と頭をよぎったら「まぁ皆解けないよね」と開き直りましょう。

また、ここ最近は以前のように問題の出題形式がコロコロ変わることは少なくなりましたが、だからこそ今一度「でも変更されても何の不思議もないよね」って思っておいてください。それだけで、万が一変更があった場合にも「こうきたかー」と流しやすくなります。

いずれにせよ、国試当日は「余計なことは考えず、1問ずつに全力をかける」ことと「最後まで絶対にあきらめない」ことが本当に大切です。心が折れそうになっても、絶対に負けないでくださいね。