卒業試験への親御さんのクレームは

親御さんの思いがかえって合格を遠ざけることも

数年前にある私立大学で講義をもっている先生とお話をする機会がありました。ここでは仮にA先生とします。

A先生は昔からの知り合いで、お互い歯科医学教育に従事していることもあり、機会があるごとに教材をみせあったり、講義の構成について議論を交わしていました。予備校とは違い、研究や臨床がある大学に勤務しているにも関わらず、教育にもかなりの熱量をかけていたA先生。学生さんからもそれはそれは高い評価を得ていました。

「え、、、。A先生、講義資料が今までの倍くらいに増えてますけど、なんですかこれ???え!え!!こんなマニアックなところも入れたんですか?こんなの絶対出ないでしょ???」

「いやー、、、前回の国試でうちの科目、マニアックなところが1問出題されちゃったじゃない。あれで保護者の方々からそうとう怒られちゃって、、、。同じレベルのマニアックな部分も入れ込んだら、こんな量になっちゃったんだよ。もちろん講義ではほとんど触れてないけどね。でも学生は相当混乱してる、、、。」

学生さん達を心から大切にしているA先生。

そして誰よりも学生さん達の合格を願っていたA先生。

その辛そうな顔、そして絞り出すような言葉に、私は何も言えなくなってしまいました。

マニアックなところは国試合格にはいりません

歯科医師国家試験では何よりも基本的な知識が必要です。

基本的な知識を完璧に仕上がれば、余裕で合格できます。

もちろん、基本的な知識だけでもそれなりの量がありますが、だからこそマニアックな知識はいりません。そんなことやっている場合ではないのです。

マニアックな問題が出題されることもありますが、統計的に考えれば「正答率が低い問題は出題されなかったのと同じ」です。もしすでにお子さんが十分な合格レベルにあり、基本的なところが完璧だったら、少し細かなところに手をつけても良いでしょう。でも、もしもそうでなければ、同じ一時間をかけて「歯科国試でおそらく出題されること」と「歯科国試でおそらく出題されないこと」どちらをやるのかは、言うまでもなく前者です。

大学への下手な口出しは思わぬ結果につながることも

率直に言って、卒業試験が「国試対策」としては適切でないケースもあります。それは大学ごとというよりも、科目(教室)ごとの性質で、「国試対策がすべてではない」というポリシーが理由なこともありますし、逆に「国試に傾向を合わせようとしているけれど不十分」ということもあります。

ご家族からしたら、直前期ということもありますし、「何しろ国試につながる教育を」と望まれる気持ちは本当によくわかります。ただ、歯科医師国家試験対策に従事していない親御さんが卒業試験の内容に口を出すのは、かなりのリスクが伴います。歯科医師国家試験対策は「出た」「出なかった」で白黒つけられるような単純なものではありません。

現在、私立大学の中には、入学者を募る際に「歯科医師国家試験の合格率」をアピールしているところもありますので、結果についてはスポンサーとして意見を言う権利はあると思います。(とはいえ、教育する側の責任と教育される側の責任がそれぞれどの程度なのかという問題もありますが、、、)

でも、その過程においては、素人意見は禁物です。念の為、申し上げますが、歯科医師免許を持っていらっしゃる親御さんも教育に携わっていないのであれば同じです。大学関係者との議論や意見交換は大切ですが、一方的に内容の変更を要求するようなことは、お子さんの未来のためにもどうか慎んでください。

親御さんも正しい国試対策を

私は受験生の親御さんに対していろいろと禁止することが多いため、あれもダメ、これもダメと言われてうんざりされることもあるでしょう。

でも、親御さんにしても、受験生にしても、途中過程で多少「うるさいなぁ」とうんざりされたとしても、結果が出ればそれですべてOKだと思っています。受験においては、ある意味では結果がすべてですよね。どんなに途中過程で快適でも、結果が伴わなければ「まぁ快適だったから、それでいいや」とはなりません。

また、そもそも親御さんの問題が多いかというと、実際のところはきちんと考えられて、正しいスタイルでお子さんを応援している方がほとんどです。ただ、そうでない場合、特に今回のように大学教育に影響を与えるとなると、他の親御さんが大学に対して主張したことが、ご自身のお子さんの合否にまで影響を及ぼす場合があります。歯科医師国家試験対策においては、このように親御さんの言動がお子さんのリスクにつながるケースもあること、覚えておいていただければ幸いです。