なぜ「ほめる教育」が良いのか

この記事は主に保護者の方を対象としておりますが、受験生本人が自己管理に応用することも可能です。歯科疾患は生活習慣によるものも多いので、将来的に患者さんを管理するときにも参考になれば幸いです。

「ほめる教育」は合理的

「ほめる教育」が良いとよく言われますが、期限が厳密に決まっている歯科国試対策では、保護者の方も、指導者の方も、「そんな悠長なことを言っている場合ではない。何しろ無理矢理にでもやらせないと」と思ってしまいがちです。

確かに場合によっては、多少の強引さは必要となりますが、基本的には私は受験生を叱責することはありません。
ひとりの人間として個々の受講生を尊重したいという気持ちもその理由のひとつではありますが、一番の理由は「叱っても成果が出にくい」という合理的なものです。
言うまでもなく、国家試験は結果がすべて。
結果にとことんこだわってきたからこそ、そして何千人という受験生のデータを追いかけ、直接指導してきたからこそ、「ほめる教育が一番だ」と断言できます。

「叱ると伸びる」の錯覚

この問題について、たいへん理解しやすいコンテンツがありましたのでご紹介します。
ぜひ以下のリンク先のスライドをご覧になってください。

ほめることと叱ることの錯覚
日本心理学会 心理学ミュージアム

おわかりになったでしょうか。「叱ると伸びる」は錯覚でしかありません。
また、そもそも成績は上下しながら変動していくということも大切なポイントです。

「ほめる」と「甘やかす」は違います

私は「ほめる教育」を推奨していますが、これはもちろん甘やかすのとは全く別のものです。ほめる理由が無いのに適当に調子が良いほめ言葉を投げたり、良くない傾向がみられるのに指摘せずに放置することは決してありません。

「望ましい行動」をほめる

他の記事でもふれましたが、成績をほめるのではなく、望ましい行動をほめましょう。本当にハードな歯学部6年生。誰だってちょっと休みたいんです。いっぱい寝たいんです。それをぐっと我慢してがんばったら、ぜひ手放しでほめてあげてください。
成績を一切ほめないのも不自然ですから、がんばった結果が出たらそれもほめてあげて大丈夫ですが、あくまでも「行動がメイン」であることを忘れないでください。

「望ましくない行動」は指摘する

ああしろ、こうしろと頭ごなしに言っても、人間の行動は変わりません。
そして、やらなくてはいけないなんて、受験生の誰もがわかっているんです。
本人の到達したい目標を確認し、残り時間を数え、すべきことが具体化したら、あとは進捗管理です。
毎日、8時間は勉強時間を確保しなくてはいけないのに、それが達成できていないときには「ダメじゃない」ではなく「勉強時間が確保できてないね」とそのまま指摘し、それを改善するための具体案を一緒に考えます。

例えば、毎日朝起きれなくて遅刻してしまう場合

遅刻が続いてるね

はい、、、。がんばって起きるようにします

えーと、、具体的にはどうやってがんばろうか?

たいてい、ここで受験生にはギョッとされます。そんなにおかしな質問でも無いと思うのですが。。。
話を聞くと、これまでずっと「がんばります」で乗り切ってきた人が大多数。もちろん本人はがんばるつもりでいるんです。けれど、精神論だけで行動を変えられるわけがありません。具体的なプランが必要です。
また、受験生によってはこれまで「もっと勉強しろ」「遅刻するな」と一方的に叱責され続け、その場を逃れるための呪文のように「がんばります(早く終わらないかな)」と口にすることもあります。こんな条件反射を作らないよう、親御さんや学生を指導する先生には注意していただきたく思います、

そうですね。えーと、、、えーと、、、早く寝るようにしたいんですけど、ベッドに入っても眠れなくて

寝る直前までスマホをみてるならやめた方が良いかも。ポッドキャストとか耳だけで楽しめるものに切り替えてみようか。
あと去年に比べて運動量は減ってる?

去年は部活もやってたので、それに比べるとぜんぜん運動してないですね

受験生は頭ばかり疲れて、身体が疲れないから、入眠が難しいケースもあるけど、当てはまりそう?

あ、だったら帰りはひと駅分歩いてみます。身体がなまってる感じがして、ずっと気持ち悪かったんですよ−

という感じで、話し合いをします。
改善案がお互いに納得いくものになったら、最後に確認。

そしたら、寝る一時間前からは目になるべく強い光を入れないのと、帰りはひと駅分歩くのを2週間ほど試してみましょう。それで上手くいかないところがあったら、また作戦会議しようね!

はい!がんばってみます

あとは進捗管理です。
一方的に命令したことよりも、一緒に考えて合意したことの方が圧倒的に実現率は高くなります。完璧主義に陥るのも挫折の原因となりますので、パーフェクトを目指すのではなく、勝率をあげることを目標としていきましょう。

親御さんにお願いしたいこと

上記の流れをみて気づいた方も多いと思いますが、課題を客観的に把握し、改善案を検討し、進捗管理をしていくというのは、ビジネスでプロジェクトやスタッフの管理をするのと同じです。
それゆえ、家族の関係性だとビジネスライクに進めることが難しいのも事実です。
課題の把握、分析、検討、進捗管理などは、もし可能であれば大学や予備校の先生におまかせしてしまうのが良いと思います。
ただ繰り返しになりますが、一方的に叱るのは絶対にやめてくださいね。
勉強の妨げになりますので、、、。

受験生にお願いしたいこと

課題の把握、分析、検討などは大学や予備校の先生と一緒にした方が良いです。人を巻き込むことによって「あ、ほんとにやらなきゃいけないな」ってスイッチは入りやすくなりますので、目的を確実に達成するためには使えるものは何でも使ってください。

覚えておいてほしいのは2つ!

あまり自分を責めすぎないこと。

何か改善すべき点があったとしても自分が100%ダメなわけはありません。

「ここは上手くできてる」←ちゃんと自分をほめる
「けど、ここはまだ改善できるな」←客観的に改善すべき部分は把握

きちんと自分の行動をわけて、ほめれるポイントはガンガンほめてあげてくださいね。歯科医師国家試験対策は長期戦ですから、自分を大事にしながらじゃないともちません!自分に対する自分の声って、ものすごい影響力を持つんですよ。受験生ですから、ストイックにがんばるときがあっても良いと思いますが、「自分を叱るような思考」は禁物です。

作戦会議は具体的に

行動変容ってね、本当に本当に難しいんですよ。他人はいうまでもなく、自分の行動だって人間はそう簡単に変えられません。
だからこそ、気合いだけで行動を変えようというのはナンセンス。失敗の回数が増えて、どんどん自己嫌悪に陥るだけです。

何かを改善しようと思ったら、必ず具体的なプランを立ててください。最初から完璧なプランなどできませんが、続けていくうちにさらなる改善点がみつかり、自分にもっともあった自分のコントロール法がみつかるはずです。

「ただしくほめること」、「叱るのは意味がないこと」、ご理解いただけましたか?
受験期は、親御さんにとっても、受験生にとっても試練のときですが、シビアな状況だからこそナンセンスな方法は避けるようご注意くださいね。